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タイトル: 米国型記録管理システムの形成とその日本的展開
著者: 坂口, 貴弘
サカグチ, タカヒロ
Sakaguchi, Takahiro
抄録: 組織体や個人がその活動の過程で生み出すアーカイブズは、コミュニティの歴史や文化の創造の糧として、市民や社会に共有される情報資源として、あるいは当該作成主体の経験の痕跡としての複層的、多面的な価値をもつ。これらの記録は過去と現在の社会を物語る証拠として用いられるが、それと同時に、記録が作られ、整理され、選択され、保存される仕方自体も、その属する社会を異なる角度から描き出すものとなる。20世紀の米国で大規模な展開を遂げた現代記録管理システムは、文書館等におけるアーカイブズ資料の保存・公開と、それを生み出した組織体における文書管理との連携強化を志向する点に特徴が見出せる。つまり、行政や経営の効率的・効果的運用と歴史的資料の保存・公開という、一見すれば全く相反する要求を両立させるための方法論が模索されたのである。本論文では、19世紀末以降の米国において、組織体内部の文書管理(現用段階)とそれを保存・公開するアーカイブズ(非現用段階)の連携を重視した記録管理システムが独自の展開を遂げた過程につき、記録管理を構成する諸技法の普及・変容の側面に着目しつつ一次資料を用いた検討を行うとともに、近現代の日本においてそれが受容され、解釈され、実践された過程について考察した。  第1章「記録管理システムの諸側面」では、記録管理システムの類型として、組織体の特定の部門が集中的かつ独立的に記録管理機能を担う「集中・独立型」と、専門部門及び各部門とが連携しつつ記録管理業務を分担する「分散・連携型」を挙げ、これらが本論文で検討する記録の探索システム、評価選別システム、保管システムの各々においていかに適用されるかを示した。欧州で発達した集中・独立型の記録管理システムは、20世紀前半の米国連邦政府において質的な変容を遂げ、分散・連携型の方法論が大規模に実践されるに至ったのである。  第2章「情報探索システムとしての米国型文書整理法」では、19世紀末から20世紀にかけての米国で事務文書の整理法が独自の展開を遂げた経緯について、そこで須要な役割を果たした企業の文書資料に基づき分析を行った。この時期、企業体が生み出した文書の急増と過去文書の活用への要求は、文書を時系列順に綴じ込む欧州由来の伝統的整理法に改変を促した。新たな文書整理法の顕著な特徴は、カード・システムの応用により、各文書群の特性に応じた多角的検索を容易にする点にある。この時期の文書整理法の変容が、後に国立公文書館へ移管されるアーカイブズ資料のあり方を規定することになる。  第3章「文書整理者の拡大と学校教育」では、第2章でみた米国型文書整理法が急速に普及し、独自の文書整理専門職を形成するに至った過程を検討した。この方法論が一定の確立をみていた1910年代には、それを教授する専門学校が相次いで創立される。第一次世界大戦期の事務従事者需要の増大に応じて成長したこれらの学校では、特定企業の商品に依存しない科学性と汎用性が強調された。そこで開発された実習教材は全米の商業学校等で使用され、高度な文書整理技能を身につけた人材層の拡大が、第二次世界大戦後におけるレコード・マネジメント専門職の形成を準備した。  第4章「米国国立公文書館における資料探索システムの形成」では、設立当初の米国国立公文書館において、従来型の資料目録とは異なる独自のアーカイブズ探索手段が編み出された背景と要因について、同館の歴史に関する資料群を手がかりに分析した。米国国立公文書館の探索手段は、欧州由来のアーカイブズ理論・原則を摂取しつつ、移管元の各政府機関との連携を強化し、現用段階における文書管理の秩序を生かす方向性を強化する中で構想されたものであった。すなわち、米国連邦政府文書の実態を踏まえた文書群単位ごとに探索手段が作られ、その記述では当該文書群の現用段階における整理方式が「原秩序」として重視されたのである。  第5章「評価選別システムの成立と米国国立公文書館」では、現用段階を終えた後の文書の処分措置(国立公文書館への移管ないし廃棄)を予め定めておくという「評価選別」システムが、創設期の米国国立公文書館において編み出されるに至る過程を検討した。連邦政府機関の公文書を「外部評価」する権限が新設の国立公文書館に与えられた背景には、その半世紀前から不用公文書の処分に連邦議会の認可が必要とされていた経緯がある。国立公文書館はその成果を踏まえつつ評価選別手法を改訂していくが、その過程で現用文書管理との連携の必要性が提起される。新たに開発された評価選別手法は、非現用段階における事後的な選別から、現用段階での文書の作成・整理・管理を制御する計画的手法への転化を意図したものであった。 第6章「集中管理概念の変容とレコードセンター」では、第二次世界大戦前後の米国におけるレコード・マネジメント領域の成立過程について、中心的な位置づけを与えられていたレコードセンターという機関に着目しつつ考察した。集中・独立型管理を重視していた米国型文書整理法は、1930年代に入ると次第に一定の分散保管を許容するに至る。この時期の連邦政府では、第二次世界大戦への参戦に伴う公文書の急激な増加を背景に現用文書制御の必要性が主張され、併せて非現用文書の同館への一極集中化方針が見直されるようになる。同館職員エメット・リーヒーは海軍省に派遣され、利用頻度の低下した省内文書を保管するレコードセンターを創設した。省庁の執務環境の向上と書庫狭隘化の回避に寄与するこの概念は連邦政府全体で採用され、その運営や監督を国立公文書館が担ったことが、連邦文書管理における同館の地位確立の要因として重要である。  第7章「日本における米国型記録管理システムの受容」では、近代以降の日本において欧米の記録管理システムがいかに紹介され、理解され、実践が試みられたのか、外務省記録等を手がかりに分析した。明治国家体制の確立に伴い整備された文書管理制度は、厳密な集中管理方式である欧州型の文書整理法を参考にしたが、必ずしも定着するに至らないまま推移する。明治中期に紹介された米国型文書整理法の最大規模の導入例は1920年代の外務省であったが、ここで強調された集中管理の方式は省内に定着するに至らず、数年で修正を余儀なくされる。これらの経緯を踏まえ、戦後の文書管理論においては集中管理と分散保管を併用する方式に積極的な位置づけがなされるようになった。  第8章「日本占領行政の中の記録管理システム」では、米国陸軍省を主体になされた日本占領行政機構において、米国型の記録管理システムがいかに導入・適用されたかを検討した。米国国立公文書館の幹部職員であったコラス・ハリスは、連合国軍総司令部(GHQ/SCAP)民間情報教育局の一員として日本に着任し、敗戦直後の日本政府の公文書管理について調査している。戦争で被災した文化資源の保護活動として行われたこの調査は、図らずも日本の記録管理システムの特質を明らかにしていた。一方で米国陸軍省は、第二次世界大戦中に文書分類やレコードセンター等をめぐり省内で開始した試みを海外部隊としてのGHQ/SCAPに持ち込んでいる。現在、日本占領史研究の基礎資料として活用されるGHQ/SCAP文書群の体系を生み出したのは、この陸軍省にならって導入された文書分類・管理・処分の方法論であった。 第9章「戦後文書管理における保存と廃棄」では、戦後日本の文書管理においては、なぜ不用文書の廃棄のみが重視され、アーカイブズの保存が重視されなかったのかについて、米国のレコード・マネジメント概念の受容との関連を軸に考察した。第二次世界大戦前及び直後に紹介された米国型文書整理法は、もともと文書廃棄を必ずしも重視しなかったが、レコード・マネジメント事情の翻訳が進むにつれ、次第にその側面が強調されるようになる。行政管理庁もこのような動向をとり入れた文書管理改善運動を推進するが、ほぼ同時期に総理府が進めていた国立公文書館設置準備との連携は密接ではなかった。両府庁は分散・連携型記録管理システムに立脚した米国の方法論を各々に参照していたが、その原理への部分的・一面的理解と省庁セクショナリズムが、国立公文書館への文書移管の停滞と大量廃棄をもたらすことになった。  本論文では、記録管理の主要な構成要素である探索システム、評価選別システム、保管システムについて、公文書の急激な増加に直面しつつあった第二次世界大戦前後の米国連邦政府の動きを中心に検討し、この時期に分散・連携型の記録管理システムが確立し普及をみたことを明らかにした。一方で日本では、現用文書管理における保管単位の分散化が進んだ点では米国と軌を一にしているが、政府文書が国立公文書館に集中的に移管される局面は存在せず、従って分散・連携型の探索システムと評価選別システムの必要性が現実味をもって検討されるに至らなかった。2011年の「公文書管理法」施行により、このような状況が実現する可能性は高まっているが、それを効果的ならしめるには、各行政機関とアーカイブズ機関とが連携を深め、公文書の探索・評価選別・移管等の促進を可能にする方法論の検討と普及が求められる。
発行日: 2014-5-20
学位授与機関: 学習院大学大学院
取得学位: 博士
学位の分野: アーカイブズ学
報告番号: 甲第239号
学位授与年月日: 2014-03-08
請求記号: 369
URI: http://hdl.handle.net/10959/3453
出現コレクション:博士(アーカイブズ学)

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